映画『ノマドランド』鑑賞。

 ルドヴィコ・エイナウディのなせつなさが漂うアンビエントミュージックがバックに流れながら、岩に囲まれたアメリカの荒野をキャンピングカーが走っている。冬はAmazonで働き、春はファーストフード店、夏はキャンプ場、秋は収穫の仕事…など、季節ごとに場所と職を転々としながら、キャンピングカーで生活している、60代女性のドキュメンタリー映画のようでした。

 時代背景は、リーマンショック後のアメリカ。フランシス・マクドーマン演じるファーンが住んでいたエンパイアという街の企業が破綻し、街ごと機能がなくなって、郵便番号でさえもなくなり、未亡人でもあり、年金もほとんどもらえないから、ノマドにならざるを得ない、キャンピングカーでの生活を余儀なくされたというところから物語がはじまりました。

 なので、悲惨な映画なのかなと思いながら観てしまいがちですが、キャンピングカーでいろいろな場所に移り住み、必要なだけ働き、また次の場所に移動して、そこでまた広大な自然と出会い、新しい出逢い、仲間でキャンプファイヤーを囲むことも、なんだか人生に必要だなと思えてきたりします。様々なシーンで、人生について考えさせられたり、感情も揺さぶられたりするとても深い映画でした。

 そして、映画を観た後に驚かされたことは、ノマドたちのシーンの中では、フランシス・マクドーマンと、デビッド・ストラザーン以外、リアルな人たちが演じているのだそうです。女優っぽい顔ではないとは思ったのですが、まさか! フィクションとリアルの境界線をなくしていることも、この映画の特筆すべきところで、監督は中国生まれのクロエ・ジャオ、なんと女性です! いろいろ凄いところが多すぎて、アカデミー賞「作品賞」になるのではないかと期待されているそうです。

 フランシス・マクドーマンドの体当たりな演技、自然と調和する姿は、本来の人間に戻っていくようにも見えました。ただ、「過去に生きている」ようなところがあり、それがときどき、葛藤を生む姿も、また人間らしいところでした。

 全く新しい価値観を見せつけられた映画となりました。日本人のメンタリティーと、全く違う世界のものを見ている感じもありましたが、こういう現実も実際に存在しており、本当に生き方って自由なのだなと思わされました。そして、もっと自由に生きられるかもしれません!

 今は、パンデミックでノマドどころではありません。そんなタイミングで、ビフォーコロナ前撮影のこの映画が上映されるというのも、なんか不思議な気もします。久々に壮大な映画を観ました。そして、『スリービルボード』に続き、フランシス・マクドーマン素晴らしかったです!