"Can I ask for Otemoto?"「おてもと」をどう英語で説明する?

 フィリピンの英会話の先生に、大阪出張の写真を見せながら、旅の話をしていた。料理の説明をしていると、写真の端に写っていた割り箸の袋の文字に、先生の目が止まった。

「OTEMOTOってお店の名前?」

思わず笑って、「違います」と答える。

すると彼女は少し考えてから、もう一度たずねた。

「じゃあ、“おてもと”って、お箸のこと?」

それもまた、違う。(笑)

どう説明すればいいのか、言葉が見つからない。

お手拭きにも「おてもと」と書いてある。

けれどそれはブランド名でも、物の名前でもない。

「お手元」という言葉は、ほんとうは──

“あなたの前に、静かにあるもの”という意味。

つまり「ここに置かれた小さな気づかい」。

日本語の中に生きている“間”の言葉だ。


レッスンの終わり際、先生が笑いながら右手を挙げて言った。

「Can I ask for Otemoto?」

きっと、“Can I ask for chopsticks?”というニュアンスだったのだろう。

私はその瞬間、もう笑いが止まらなかった。

「おてもと、ください!」という外国人がいたらと思うと。(笑)


文化のちがいを越えて、

「おてもと」という音が、ふたりのあいだにふんわり残った。

まるで、テーブルの上にそっと置かれた箸袋のように。