セブ島M6.9地震から1週間──オンライン英会話の先生が語った、震災と希望の記録

突然つながった画面の向こうに

「Hello!!!」

画面越しに声をかけると、いつもの部屋から、いつもの笑顔の先生が現れた。マグニチュード6.9の地震がセブ島を襲ってから、ちょうど1週間。4年間お世話になっているオンライン英会話の先生は、震源地に近い地域に住んでいる。

安否は確認できていたものの、電気も通らず、野宿を余儀なくされていると聞いていた。だから、予約していたレッスンは代わりの先生が担当してくれていた。ところが次の予約がキャンセルされずに残っていたのを見て、胸が高鳴った。

「もしかして、電気が復旧したのかも──」

予感は的中した。最初は少しインターネットが不安定だったものの、すぐにクリアな映像が映し出された。思っていたよりずっと早い復旧に、驚きと安堵が込み上げてきた。


6000回を超える余震、それでも

画面の向こうに映るいつもの部屋。でも壁には亀裂が走っているそうだ。

「6000回以上も余震が起きているの。眩暈がしている感じ。」

先生は淡々と、けれど力強く語ってくれた。近所に住む親戚の方々は無事だったそうだが、知り合いの中には助からなかった人もいるという。

「こんなにひどい地震は初めて」

その言葉の重みが、画面を通して伝わってきた。


助け合いの温もりが、闇を照らす

水も食料も不足している。それでも、セブ島の北部まで物資を運んでくれる人たちが大勢いるのだという。大渋滞の中、必死に支援物資を届けてくれる人々の姿に、人々の温かさを感じたそうだ。

先生自身も、水を求めて井戸まで歩いて行った。周囲の人たちと助け合いながら、なんとか生活を維持している。

「余震で建物が崩れるかもしれないから、外で寝ていたの。そうしたらね、天の川が見えたのよ」

と言って、写真を見せてくれた。画面越しでも天の川が見えた! 夜空に瞬く無数の星。美しい雲海。日常では気づかなかった美しさに、思いがけず出会った瞬間だったのだろう。


森でのサバイバル、まるでキャンプのように

ガスが使えないため、木を拾って火をおこし、食事を作る日々。森のような場所に住んでいるため、テントを張ってキャンプさながらの生活が続いているようだ。

幸い、田舎ならではの家庭菜園があり、ほうれん草やココナッツを収穫して食べているという。

「でも、いつもより量は少ないから、体重は落ちちゃったわ」

そう言って笑う先生。その笑顔の奥に、どれほどの苦労があったのだろう。


静寂がもたらした、意外な発見

「そういえば、ChatGPTと何日も話してない」

先生はそう言って、また笑った。そしてこう続けた。

「不思議なんだけど、すごくぐっすり眠れるの。睡眠の質が良くなったみたい」

SNSもニュースも見られない日々。日常を取り巻いていた情報のノイズから解放されたことで、かえって脳と心が落ち着いたのかもしれない。

私は話を聞きながら、ハッとした。震災という過酷な状況の中で、先生は「本当に必要なもの」と「必要ないもの」に気づいていったのだ。


必要なもの「化粧ポーチ」

家は修繕が必要な状態だという。どこか、別のところに住むかもしれないそうだ。でも、仕事に必要なパソコンが無事だったことに、先生は心から安堵していた。

「もし何かあったときのために、化粧ポーチはすぐに持ち出せるようにまとめたの」

そう言って、ポーチを持ちあげながら、先生は少し照れたように笑った。


震災から1週間。復旧への道のりはまだ長い。でも画面の向こうの先生は、いつもと変わらない笑顔で、そこにいた。むしろ、ナチュラルな美しさがより輝いて見えた。

困難の中で見つけた小さな希望、人々との絆、そして本当に大切なものへの気づき──。

この日のレッスンで学んだのは、英語ではなく、人生そのものだった。