2階のバルコニー席から見える風景は、満席のオペラシティー。その舞台にバーゼル室内管弦楽団のメンバーが入場してきました。スイスの管弦楽団ということで、皆さん背が高く、貫禄も感じられます。拍手に迎えられ、にこやかに着席されました。
次に登場したのは、高身長でイケメンな指揮者、A・オッテンザマー氏。彼の靴底は赤く、まさにルブタンのようでした。プログラムを見ると、彼は35歳!もっと年上に見えるその風格。なんとウィーン生まれで、10歳でウィーン国立音楽大学に入学し、チェロを学んだ後、2009年にはハーバード大学での学びも修めたという驚異的な学歴を持つ彼。その世界レベルの才能に圧倒されました。そんなA・オッテンザマー氏と反田恭平さんが共演するベートーヴェンの「ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58」という夢のようなコンサートが始まるのです。
コンサートの幕開けは、勇壮なファンファーレ。これから始まる音楽の旅に対する期待感が一気に高まりました。
オネゲル: 交響詩《夏の牧歌》
アルテュール・オネゲルの「牧歌的な夏(Pastorale d'été)」まだ梅雨ですが、ほぼ夏の7月にピッタリの楽曲。曲の冒頭、柔らかなホルンの旋律が目を閉じたとき、緑豊かな牧草地が広がり、朝露に濡れた草の香りが漂うのが感じられます。鳥たちのさえずりが微かに聞こえ、太陽がゆっくりと昇り始める瞬間。これらの光景が心に浮かびます。
まるで絵画のような美しい風景が広がります。夏の朝の静けさと穏やかな自然の息吹を感じさせます。とても心地の良い音楽に酔いしれました。
ベートーヴェン: ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 Op.58*
反田さんが入ってこられると割れんばかりの拍手がオペラシティーを包み込みました。みんなうれしそう。(笑)
第1楽章の始まりは、独特な静けさと優雅さに包まれています。ピアノが穏やかに入り、オーケストラと対話するように音を紡ぎ出します。そんな第一楽章は最後まで結構盛り上がりを見せて終わります。なのでまるで、もう曲が完結してしまったのかと思うほど。
しかし、第二楽章に入ると、急に荘厳で何が起きたんだろうというほど深刻になったと思ったら、また静けさが訪れるという、ピアノとオーケストラが対話を繰り広げるように進行します。
最終楽章では、一転して明るく躍動的なエネルギーが溢れ出します。ピアノとオーケストラが一体となり、喜びと解放感を伴うフィナーレへと導きます。
反田さんもマエストロもとてもうれしそうで、この演奏が大成功だったことがとても伝わってきて、こちらも満足!!!
反田さんの演奏は、ヴェートーベンのみ。アンコールでは、定番の「トロイメライ」が披露されました。この演奏はとても静かで繊細であり、反田さんの驚異的な感性と技術の高さを感じさせるものでした。特に、どこまでも小さな音を出すことができるその技量には、心から感動しました。
演奏が終わると、観客からの大拍手が沸き起こり、反田さんは何度も舞台に戻ってきて挨拶を繰り返しました。その度に、会場全体が拍手に包まれ、彼の演奏に対する称賛と感謝の気持ちを皆で伝えようと必死でした。(笑)
休憩中、アコーディオン奏者の方が座席のチェックで出てこられました。どんな演奏がこれから始まるのでしょうか!
ウィンケルマン(1974−):ジンメリバーグ組曲
マエストロがこれから演奏する曲について説明してくださいました。説明は英語でしたが、日本人のヴァイオリン奏者の方が通訳してくださり、ハーバード大学出身のマエストロの英語は非常に聞きやすく、さらに「ありがとうございます」という日本語の発音も完璧で驚きました。(笑)
説明によると、なんとこの曲の作曲家自身が本日はバイオリン奏者として参加しているとのことでした。後でプロフィールを調べてみると、彼女が私と同じ学年であることがわかり、その貫禄に驚かされました。マエストロは、スイスのカルチャーをこの曲を通して紹介したいと語っていました。2018年にスイスを訪れたときの美しい風景が脳裏に浮かぶような素晴らしい演奏でした。
特に印象的だったのは、コントラバスとチェロが演奏の途中で軸を中心にくるりと回転する演出です。また、コントラバスを打楽器のように使う演奏手法には驚かされ、そのユーモラスな光景がとても可愛らしかったです。
フルート奏者やファゴット奏者がそれぞれピッコロやフルート、オーボエやファゴットを兼任している姿も見られました。一人で二役をこなす姿勢に感銘を受けました。
特にアコーディオンの音色はスイスの風景を思い起こさせ、とても牧歌的で温かい雰囲気を醸し出していました。まるで「ハイジ」の世界にいるようでした。(笑)
全体を通して、この演奏は本当に素晴らしく、音楽を通じて異国の文化に触れる喜びを感じることができました。最高に楽しかったです!
メンデルスゾーン: 交響曲 第4番 イ長調 Op.90 《イタリア》
先ほどいなかったホルンやトランペットなどの金管楽器が登場しました。そして驚いたことに、マエストロの前には楽譜台がありませんでした!おそらく何度もこの曲を指揮されているからなのか、この曲はそういう曲なのかわかりませんが、非常にのびのびとした指揮姿を拝見することができました!
始まりを聞けば、誰もが一度は耳にしたことのあるクラシック音楽です。それはまるでイタリアの明るい空と輝く太陽の下で踊るような軽やかさに満ちています。私の席からは、打楽器のティンパニーは見えなかったものの、どこかで力強く響いているその音がとても印象的でした。
有名すぎるこの曲を生演奏で聴ける幸せは、何物にも代えがたいものです。演奏者の体の動きや楽器の弾き方に目を奪われます。特に、バイオリンの多彩な音色には感動させられます。金管楽器奏者が実はマウスピースを2本持っていたりする様子も観察できました。また、演奏者が楽しそうに演奏しているのか、あるいはシリアスに演奏しているのかという情緒的な部分も見ることができ、これがライブの魅力です。
こうして目の前で繰り広げられる生の演奏は、音楽が持つ力を全身で感じることができ、その瞬間の感動を一層深めてくれます。
チケットを忘れてしまい、一時的に倍の価格を支払いましたが、それでも惜しくない、いや、むしろ申し訳ないほどの素晴らしい演奏でした。
ウィーンやスイスなど、今回のコンサートにゆかりのある地を旅したことがあるからこそ、より一層楽しむことができたのかもしれません。年齢を重ねるごとに、経験や知識が増え、それが感動をさらに深めてくれるのだと実感しました。感動的なクラシックコンサートをありがとうございました。その感動があまりにも大きく、翌日にはまた反田さんのチケットを購入してしまいました。(笑)
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