『モネと時間旅行』|白黒写真の向こうにあった、色鮮やかな人生

モネが、ホテルの部屋からバルコニーへ出ていく。

目の前には、朝の港。

モネは筆を取り、港の風景をキャンバスに描き始める。

私は以前、VRでその場面を見たことがある。

もちろん、1872年にタイムスリップしたわけではない(笑)。

それでも、モネが《印象、日の出》を描く瞬間を、すぐそばで見ているような不思議な体験だった。

だから、映画『モネと時間旅行』の中で再びその場面が現れたとき、思わず「あ、またここに来た!」と思った。

ところが、映画のその場面は、VRで見たものとは少し違っていた。

美術史で知っていた名画の誕生が、思いがけない形で物語とつながっていく。

あの《印象、日の出》が、こんなロマンチックな物語になるなんて。

映画館で思わず涙が出た。

あとから史実ではないと知って、ちょっと残念だったけれど(笑)。

そもそも『モネと時間旅行』というタイトルから、もっとモネが中心の映画を想像していた。

ところが、全然違った。

なんともフランス映画らしい、人間への温かなまなざしに満ちた作品だった。


特に心を奪われたのは、19世紀末のパリを生きる少女アデル。

このアデルが、素朴でかわいい。

新しい人と出会い、知らなかった世界に飛び込み、目を輝かせていく。

写真家や画家とのやり取りには、若い頃の、まだ何者でもない人たちが持っている自由な空気が流れている。

少し大胆で、少しぎこちなくて、なんとも微笑ましい。

そして、パリの街がキラキラしている。

アデルが母親と素敵な洋服を着て並んで歩く場面も、本当に美しかった。

母と娘のあいだに流れる時間が、少しずつ違う意味を持ち始める。

そんな二人を見ているだけで、胸がいっぱいになった。


一方、現代の登場人物たちも、なんだかいい。

古い屋敷をめぐって集まった親族たち。

最初から特別に仲がいいわけでもないし、互いに深く踏み込むわけでもない。

でも、どこかで相手を気にかけている。

あの、少し距離を保ちながらも人間を放っておかない感じが、私にはとてもフランスらしく映った。

なかでもセブ。

幼い頃に両親を亡くした彼が、先祖の人生を知り、親族たちと時間を過ごすうちに、家族というものを少しずつ感じ始める。

その変化が、なんとも温かかった。


そして、この映画はときどき、とんでもないことをする。

「アヤワスカ飲む?」

えっ、ここで?(笑)

と思ったら、なんと1874年の第一回印象派展へ飛んでしまう。

実は私、この第一回印象派展もVRで二度体験している。

赤い壁も、そこに立っている画家たちも、見覚えがある。

映画を観ながら、またあの場所に戻ってきたような気がした。

それにしても、アヤワスカで第一回印象派展に行くなんて、よく思いついたものだ(笑)。

アヤワスカの儀式には、自分の過去や内面と向き合うために参加する人もいるという。

この映画では、それが文字どおり過去への時間旅行になっている。

しかも、飛んだ先は、当時の常識を破って新しい絵画を生み出そうとしていた人たちの場所。

過去へ行ったのに、そこで出会うのは、未来を切り開こうとしていた人たちなのだ。

そんなことを考えると、あの笑える場面が、ますます好きになってくる。


もう一つ、心に残っているものがある。

古い屋敷に残されていた、アデルの白黒写真だ。

写真の中では、ただ静かにこちらを見ている少女。

でも、その少女が、あんなにも色鮮やかな人生を送っていたなんて。

パリの街を歩き、胸をときめかせ、悩み、新しい世界を知りたがる。

白黒写真の向こう側に、あんなにキラキラした時間があったのだ。

そういえば、私の家にも祖父母の古い写真がある。

写真の中の祖父母にも、きっと、私の知らない人生があった。

誰かに恋をした日も、夢中になったことも、人生が大きく変わった瞬間も。

そう思うと、古い写真の見え方まで変わってくる。


映画の中では、過去と現代が不思議なほど自然につながっていく。

現代で何かを見つけると、過去の扉が開く。

過去の出来事を知ると、今度は現代の風景が違って見えてくる。

その行き来が本当に心地よかった。

そして、映画を観終わってから、こうして一つひとつの場面を思い返しているうちに、この映画が「統合」の物語に見えてきた。

過去に起きた出来事は変えられない。

ただ、知らなかったことを知ると、止まっていた時間が少し動き出す。

すると、過去の意味が変わり、これからの人生も動き始める。

過去を忘れるのでも、なかったことにするのでもない。

自分の人生の一部として受け入れることで、未来へ進めるようになる。

そうか。

フランス語の原題は『La Venue de l'avenir』。

「未来の到来」。

モネの絵を見に行くつもりで映画館に入ったのに、最後には人間の人生そのものが愛おしくなっていた。


笑って、驚いて、泣いて。

しかも、観終わってからも、こうしていろいろな場面がつながっていく。

最近毎週のように映画館へ足を運んでいるが、今年のベストムービーだった。

パリの街の光も、あの港の朝も、ぜひ大きなスクリーンで観てほしい。