フィールライク・インタビュー

英会話のレッスンを受けようとアプリを開くと、いつもの先生の急なキャンセルが表示された。突然の変更で画面に現れたのは、28歳のフィリピン人男性の講師だった。

初対面の、お互いの自己紹介から始まる25分間。それがまさか、自分の人生を静かに振り返るロードムービーのようなインタビューの時間になるとは、その時は思いもしなかった。


「今日はレッスンの後、何をするの?」という、彼からの何気ない質問がきっかけだった。

「特に決めてないけれど、私はいつも何かを創り出しているから、なんか作ります」と答える。そこから、彼の瑞々しい好奇心がこちらの日常へと向けられた。

「休日とプライベートの区別はどうしているの?」

「私にとっては全部一緒かな」

「仕事はうまくいっている?」

「もう20年、続けているよ」

20年。その数字を口にした瞬間、自分の中でもすとんと腑に落ちるものがあった。それだけ長く続けていると、もはや「うまくいく」とか「いかない」とか、そういう一時的な物差しは消え去ってしまう。ただ淡々と、そこに在るようにやっているだけなのだ。

「20年!?」

画面の向こうで彼が目を丸くした。そこからは、堰を切ったように彼からの質問が続いた。


「その前は何をしていたの?」

記憶の糸を English でぽつぽつと手繰り寄せる。マクドナルドで働いていたこと。そこからアパレルへ転職したこと。ブログを書き始めたらお店の売上がぐんと伸びたこと。そして独立したこと。独立して5年ほど経った頃、ただ頭で考えるのをやめ、もっと深く、瞑想的に生きる必要性に気づいたこと――。

「じゃあ、これが4つ目の仕事?」

「ううん、これが3つ目の仕事だよ」

そんな数字の答え合わせをしながら、話はさらに深まっていく。


「ずっとリモートワークをしていて、外に出るのが怖くなったりしない?」

「何かを生み出すにはインプットが不可欠だから。美術館へ行ったり、音楽を聴いたり、映画を観たりして外の世界と触れ合っているよ」


さらに、毎日AIと一緒に仕事をしていること。自分のこれまでの文脈や思考をAIに積み重ねているから、まるで信頼できる右腕のようになっていること。そんな現代的な私のクリエイションのあり方まで、英語に乗せて伝えていた。


気づけば、画面の背景に映るインテリアへと彼の視線が移る。天井から走らせたアイビーのグリーン。

「それ、本物?」

「これは造花。でも、部屋には本物の植物もたくさんあるよ」

カメラを動かして部屋のグリーンたちを見せると、彼も大の植物好きだということが分かった。嬉そうに彼が送ってくれたおすすめの植物の写真は、どれも私が見知ったものばかりで、画面越しに思わずクスッと笑ってしまった。


それは「英会話のレッスン」というより、まぎれもなく濃密な「インタビュー」だった。

ふと、最近目にしたアーティスト・藤井風さんの英語インタビューの姿が頭をよぎる。

ゆっくり話す。急がない。考えながら、言葉を探しながら話す。その沈黙の間さえも、豊かな会話の一部になっている心地よさ。

今日の私は、なぜか自然とそのリズムになっていた。

速く流暢に話そうなんて大それたことは思わず、英語のパズルを一つひとつ組み立てながら、自分の歩んできた人生を愛おしむように言葉を置いていく。

これだけいろいろな経験を重ねていくと、「さて、どこから話せば伝わるだろう?」と思案すること自体が、なんとも言えず愉しい作業だった。


レッスンが終わると、すぐに彼からメッセージが届いた。

「今朝は私のクラスに参加してくださり、本当にありがとうございました。会話の中で終始積極的に、そしてオープンな姿勢で参加してくださったことを嬉しく思いました。ひとみさんの素晴らしい姿勢のおかげで、私にとっても、とても楽しく、リラックスした雰囲気のクラスになりました」

私が贅沢で有意義な時間だと感じていたのと同じように、28歳の彼にとっても、それは心地よい響き合いの時間だったのだ。


25分間、私は「正しい英語」を話そうとはしていなかった。相手の真っ直ぐな問いかけを受け取り、自分の人生の引き出しをゆっくりと開けていただけだった。

それでよかったのだ。

速くなくていい。流暢に見せる必要もない。

沈黙を恐れず、考えながら、自分の血の通った言葉で伝えればいい。

フィールライク・藤井風。

私の英語は、しばらくこの愛すべきリズムでいこうと思う。