母と船の話。

みなとみらいを母と歩いていたときのことだ。突然、マンションくらいの大きさの客船が視界に入ってきて、私は立ち止まった。海外でも遠くに客船を見たことはあったけれど、こんなに近くで見ると、想像していたよりもずっと大きくて、圧倒された。

「いつかクルーズ旅行、してみたいわね」

母がそう言った気がする。私は曖昧にうなずいた。船酔いしやすい体質なので、正直なところ、あまり乗り気になれなかった。だから、それ以上調べることもなかった。


それが今年に入って、母の友人がクルーズ旅行を計画しているという話を聞いたり、テレビで日本を十日間で巡るクルーズ船のコマーシャルを見たりしたらしく、母はまた私にそれとなく話してきた。

私は、とりあえずChatGPTに聞いてみた。大型船なら揺れは少ないらしい。酔い止めを飲めば大丈夫ではないか、と当たり前の答えが返ってきた。また、できない理由が一つ消えた。

YouTubeでクルーズ船の動画をいくつか見た。船内の様子、食事、デッキから見える景色。これなら大丈夫かもしれない、と思い始めた。


母は決めると早い。

まず時期。募集中なのは秋の便で、十月上旬と下旬に出発がある。母はよく「星が見たい」と言っていたので、どちらの日程が星空観測に向いているか、またChatGPTに尋ねた。前半の方が新月に近く、向いているという。満月も美しいけれど、やはり船上でしか見られない星空を見たい。日程は前半に決まった。

次は客室だ。窓がある方がクルーズらしい気がする。バルコニー付きの部屋は高いけれど、その価格差はまるで高層マンションの低層階と高層階ほどある。母は窓付きがいいのではと言って、旅行会社に電話したらしいのだが、なんとすでにキャンセル待ちだった。


それで初めて、窓のない客室について調べてみた。窓ありより三平米広い。よく考えれば、窓にテンションが上がるのも最初の二日くらいだろう。それに部屋を出れば、いつでも外に出られる。ChatGPTに最適解を尋ねてみたけれど、ニュートラルな答えが返ってくるだけだった。結局、選ぶのは自分だ。

窓あり客室は一人当たり十万円追加。でも部屋は狭い。この十万円は何のためのものだろう。憧れのための十万円でしかないのではないか。しかもキャンセル待ちだと、いつ空くかも分からないまま、頭の片隅に引っかかり続けることになる。それもコスパが悪い気がした。

窓はないけれど広い。窓がないから、もっと船内のアクティビティを楽しもうと思える。窓があったら、せっかくだからと部屋で過ごす時間が増えて、かえって勿体ない気がしてしまうかもしれない。

窓ありが満室でよかったのかもしれない、と思った。

母はすぐに予約を済ませた。

手動コーヒーミルを持っていこう。(笑)


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