扇山が燃えている

扇山。

2年前の春、桜の季節だった。雲ひとつない空の下で、私は三カ所から見事な富士山と桜の景色を眺めた。風景というのは、こんなにも人の心に入ってくるものなのだと、そのとき初めて知った。

扇山は私にとって4回目の登山だった。それまで登山というものがどういうものか、実はよくわかっていなかった。ただ山を登って、頂上まで行って、また降りてくる。それだけだと思っていた。

でもあの日、私は木の枝をストックにした。登山歴30年近いバディーに教わって、落ちていた枝を拾い、手に握った。するとどうだろう。登るのが楽になった。こんなに違うものかと思った。たった一本の棒切れで、世界が変わった。そして、バディーはそれまでストックを使ったことがなかったのに、私が使ったことで、後日2本のストックの購入に至る。(笑)


そして、縦走を知った。

一つの山を登って下るのではなく、いくつもの山を歩いて渡っていく。扇山と百蔵山を繋いで歩きながら、私は「登山をする人たちが見ていた景色って、こういうことだったんだ」と思った。山から山へ、尾根を伝って歩いていく。その行為が持つ自由さと豊かさに、初めて触れた気がした。

驚いて、そのことをバディーに言った。「一つの山だけじゃなくて、二つの山を一度に登れるなんて知らなかった」

すると彼女は、「それ、当たり前なんだけど」と言った。

当たり前。そう、登山をしている人には当たり前のことなのだ。でも私には新鮮で、驚きで、発見だった。

扇山はそういう山だった。私に、山の魅力を教えてくれた山だった。

その山が、今、燃えている。

1月8日の午前に始まった火事は延焼を続け、防災ヘリや自衛隊のヘリが散水を行なっているが、折からの風と乾燥で火の勢いは収まっていない。住民には避難指示が出された。登山道は閉鎖された。

私の中で、扇山は今も、あの春の日のまま、桜と富士山と青空の中に立っている。

早く消えてほしい。これ以上、山が傷つかないでほしい。そう願うしかない。

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