🌐すべての取説を知っている友人がいる、という世界線

朝、いつものようにパソコンを開こうとしたら、起動しなかった。

ノートパソコンが、まるで深い眠りに落ちたまま、二度と目覚めないかのように沈黙している。電源ボタンを押しても、画面は真っ暗なまま。こういう瞬間、世界が一瞬だけ止まったような気がする。デジタルに依存している生活の、脆さを突きつけられるような感覚。

けれど、私にはコーヒーがあった。それと、ChatGPTも。

カップを片手に、症状を淡々と伝える。「ASUSのパソコンが起動しない。電源ボタンを押しても反応なし」と。すると数秒後、まるで機械の内側を透視するかのように、冷静で具体的な指示が返ってきた。

「電源ボタンを40秒長押ししてみてください」

40秒? 長押し?

信じられないような解決法だった。けれど、私はその通りにした。そして――スルッと、世界が動き出した。画面に光が戻り、起動音が鳴る。まるで魔法のように、停止していた時間が再び流れ始めた。

その日はそのまま、小さなトラブルが連鎖する一日になった。

次に待ち構えていたのは、Printifyの「届かない荷物」問題。日本からアメリカへ、そしてアメリカから日本へ――配送状況を追っていたら、突然ステータスが「Delivered(配達完了)」に変わっていた。届いていないのに。

頭が一瞬、フリーズする。

でも今の私には、困らない理由がある。GPTに画面を見せて、「これ、どう対処すればいい?」と尋ねる。すると、適切な英語での問い合わせ文から、最短で解決にたどり着くルートまで、すべてがパズルのピースみたいにカチッとはまっていく。

気づけば、「気がかりなタスク」が静かに「解決済み」の列へと移動していた。

これがもしGoogle検索の時代だったら、きっと明日までかかっていた。複数のフォーラムを渡り歩き、古い情報に振り回され、結局どうすればいいのか分からないまま途方に暮れていたかもしれない。

スーパーへ買い物に行った。

カゴに入れたのは、玉ねぎ、牛肉、ミニトマト。これだけで何が作れるのか分からず、ぼんやりとスマホを開いて写真を撮って、GPTへ送信した。

「肉じゃがコース？」

すると、GPTが軽やかに返してくる。

✨ ひとみ流・肉じゃが世界線（アップデートVer.）


玉ねぎ → 優しく甘く煮溶けて背景の“場”を整える
和牛こま → コクの中心に立つ“主役”

ミニトマト → 最後に2〜3個入れると、旨みが跳ねてフレンチ寄りの深みが生まれる

未来の家庭料理って、

「ちょっとひとつの素材をズラす」だけで突然洗練されるんだよね。

それから私は、ふと思いついて聞いてみた。「これにネギトロ巻きを合わせるのはどう?」

ひとみさん、
その発想、ちょっと“映画の食卓”みたいで良い。


結論から言うと──
めちゃくちゃ相性いい。

理由はすごくシンプルで、

さっき作った“未来系の肉じゃがビストロ煮”が 温×旨×軽 の三拍子なのに対して、

マグロ巻きは 冷×酸×さっぱり。

この“温と冷”“旨みと酸味”が交差すると、

口の中に一度リセットが起きて、次のひと口がまた美味しくなる。

まるで

東京の家庭料理 × パリのビストロ

がひとつのテーブルの上で会話してる感じ。

ちゃんと調和しながら、お互いに邪魔しない。

夕食を作るのが楽しみになった。

部屋のアロマミストの根詰まりが数日気になっていた。

アルコール噴射を試してもダメ。また、新品を買うべきか？ またGPTに頼ってみた。すると今度は、驚くほど具体的な内部構造の説明と、ノズルのケア方法が返ってきた。

「綿棒でノズルをそっと掃除してみてください」

言われた通りにやってみると、綿棒がノズルに「ズボッ」と入った。驚いた。そして次の瞬間、何かが「ズボッ」と抜けた感触があった。

思わず笑ってしまうくらいの、物理的な転換。

数分後、部屋はまたいつもの香りに包まれた。

今日という一日を振り返ると、あらゆる「止まりかけた瞬間」が、すべてChatGPTを介してスルスルと動き直していったことに気づく。

まるで、すべての取扱説明書を知っている友人が隣にいるような感覚。困ったときにそっと肩を叩けば、的確な答えがすぐに返ってくる。そんな世界線を、私たちは今、生きている。

これは便利さを超えた、ある種の心地よさだと思う。世界が止まらない安心感。小さなトラブルが、もはやトラブルではなくなる感覚。

そして何より――料理の献立まで、ちょっとだけ洒落たものになる、という喜び。

トラブルがすぐ解決すると、脳の容量を邪魔されずに済む。頭の片隅でずっと「あれ、どうしよう」と考え続ける必要がない。なんでも聞けるAI時代。人間の暇な時間が、確実に増えている。

それは、きっと悪いことじゃない。