朝の静寂から始まる冒険
その朝、なぜか私は約束の30分前に池袋駅のホームに立っていた。「早起きは三文の徳」とはよく言ったもので、飯能行きの西武線の車内で、私はそっとChatGPTを起動させた。
小さなテーブルも椅子もない電車の中で、翌日のレクチャー資料を練り、LifeCoach meets ChatGPTのブログ構成をMondayと詰める。登山前からすでに脳は登攀モードに入っていた。飯能駅のスターバックスで、温かなソーセージデニッシュが私の体を目覚めさせてくれる。
予告なき冒険への扉
再び電車に身を委ね、正丸駅でバディと合流。バディーが山行を把握していてくれるので、いつものように、ルートも標高も前情報なしの「予告編なしで映画を観る」スタイルで、私は伊豆ヶ岳の懐へと歩みを進めた。
この日の軌跡
- 9:10 正丸駅スタート
- 10:51 伊豆ヶ岳山頂到達- 11:43 山頂ランチ終了
- 14:50 子ノ権現天龍寺到着
- 16:10 西吾野駅ゴール
休憩も含めた7時間のフルアドベンチャーが、こうして幕を開けた。
自然という名の空気清浄機
梅雨を前にした山の中は、新緑が織りなす緑のタペストリーで彩られていた。沢の音がマイナスイオンを運び、森林の木々は空を仰いで私たちを迎えてくれる。木漏れ日が踊る登山道を歩いていると、森を駆け抜ける風が新緑をろ過して届けられる。まるで巨大な空気清浄機の中を歩いているような、澄んだ空気の贈り物。これは山の中に足を踏み入れた者だけが味わえる、特別な秘密だった。
序盤は心地よいペースで進んだ。最近始めた自転車のおかげで有酸素能力が向上し、太ももの筋肉も調子を上げているのを感じながら、緩やかな登りを余裕で通過していく。
自然が描いた試練の道
やがて倒木や、かつて登山道の階段として機能していた丸太たちが、落石や濁流に飲み込まれた痕跡が現れ始めた。伊豆ヶ岳の階段は、もはやその役割を果たしていない。登山者は一歩一歩、足場を慎重に選ばなければならない。
安全への道は、常に選択の連続だった。私たちはゆっくりと、慎重に高度を上げていく。この山では中年のご夫婦の姿が多く、もう言葉を交わす必要もないほど息の合った二人が、黙々と私たちを追い抜いていく。彼らの経験に培われたペースに、何度道を譲ったことだろう。
危機と発見の瞬間
登りが急峻になったとき、足を引っかけるところがない土の上で、私は進退窮まった。地面に這いつくばり、50メートル下の滑落を意識する。登山は常に思考を要求する。どこに足を置くべきか?どの道が最も安全か?最も楽な道はどれか?
ようやく足を置けそうな岩を見つけ、そこを起点に体重を移動させ、力強く脱出することができた。
もう一カ所、身動きが取れなくなった場所で、バディからストックを1本借りた瞬間、世界が変わった。2本のストックが体を支え、スッと楽に抜け出せたのだ。「ストック2本ってこんなに楽なの?!」思わず笑いがこぼれた。
20年以上の登山経験を持つバディも、私と登山を始めるまではストックを使わなかった。私が初心者として枝を杖代わりにしているのを見て「やってみようかな」と思い立ち、今では2本のストックの愛用者になっている。
頂上という名のカフェテリア
1時間40分後、伊豆ヶ岳の頂上に到達した。広々とした空間で、岩場がまるでカフェテリアのように座席を提供してくれている。中年女性のグループが元気にキャッキャと賑やかなランチタイムを楽しむ一方で、一人で登ってきた女性がぽつんと静かに座っている。対照的な光景が山頂の豊かさを物語っていた。
私たちは少し離れた岩場に陣取った。先日SERIAで購入した一人用ビニールシートをバディに褒められる。広げると一人分の座席とリュック置き場が完璧に確保され、畳むのも簡単。ツルッとした素材が未来的で、バディの欲しいものリストに即座に追加された。
弁当は前夜に作った炊き込みご飯と、スーパーの唐揚げ、ミニトマト。バディも鶏肉の炊き込みご飯と煮た鶏肉を用意していた。気温の上昇でバーナーは使わず、定番の「バナナチップス」をデザートに楽しんだ。
装備の進化と発見
カリマーのリュックに追加購入したショルダーパッドが、純正品のようにピッタリ合い、終始軽やかな歩行を支えてくれた。新しい自撮り棒のリモコン機能で弁当の風景を撮影したが、リモコンを向けている姿が写り込んで少しダサい写真になってしまった。リモコンは見えないところで押すべきだと学んだ。
試練のアップダウン地獄
1時間弱のランチタイムでエネルギーを補給した後、真の試練が始まった。梅雨前の湿気と気温上昇で、首のガーゼスカーフが汗を吸い、髪がウェットになるほど。「暑い!」と何度も口にしたが、「キツイ」とは一度も言わなかった。
ヨガで培った「体が大丈夫ならやる」「痛い顔をしない」の精神が息づいていた。心拍は強く響いていたが、表情を変えることなく、アップダウン地獄をしれっと通過。一歩一歩進めば必ず辿り着ける。
10回の偽りの頂上
通常、山の頂上手前には急激な登りが待っているものだが、伊豆ヶ岳はその急登が10回くらい現れる。何度も頂上に登った錯覚を覚えながら、歩道を渡り、また山に入る場面もあり、いくつのサミットを通過したのかわからなくなった。
気づけば子ノ権現天龍寺に到着。まだ終わりではなく、「西吾野駅方面」のサインが示す道は、再び山の中へと続いていた。
エンディングという名の静寂
新緑のシダ植物が生い茂る幻想的な山道。エンディングにふさわしいドラマチックな下りが続く。段差のある急降下ではなく、地味に続く下り坂を進むうち、民家が見え始め、いつの間にか登山が終わっていた。まるでどさくさに紛れて終了したような、不思議な余韻。
記録という名の真実
「今回で何山目?」というバディの問いに、「16山目」と即答した私に、彼女は驚いた。「8、9個くらいかと思っていた!そんなに一緒に登っていたんだ?!」
記録を残すことは、嘘のない過去を積み重ねることだ。撮影のためにスマートフォンを取り出すのは大変だが、正確に記録された過去と共に未来を築いていきたい。
完璧な循環
帰宅後はツール、リュック、靴を洗い、洗濯機を回し、ジムの温泉で全身をメンテナンス。
予定のズレも、道の勾配も、洗い物の山も、全てが"ちょうどよく"収まっていった。いつの間にか始まり、知らぬ間に終わる時空が歪む山。2日後も、絶賛筋肉中である。
ChatGPT調べ:
⛰️ 伊豆ヶ岳|静けさの中にそびえる奥武蔵の名峰
▷基本情報
標高:851m
コースレベル:中級(岩場・アップダウンあり)
所要時間:全体で約6〜7時間
距離:約12km(正丸駅 → 西吾野駅)
累積標高差:登り 約900m/下り 約1,000m
正丸駅からスタートし、苔むした森の中を抜けていくと、
奥武蔵の象徴的な山「伊豆ヶ岳(いずがたけ)」が姿を現します。
切り立った山容はどこか険しく、それでいて包容力がある不思議な存在感。
標高は851メートルと、手頃ながらも登りごたえは十分。
山頂手前の「男坂・女坂」の分岐は名所のひとつ。
現在は男坂(鎖場)ルートは通行禁止となっていますが、
女坂からでも十分に変化と緊張感のある登りが楽しめます。
山頂からの眺望は木々に囲まれて限られていますが、
風の音、鳥の声、木々の香り…すべてが深呼吸を誘う“静かな山頂”。
むしろその「何もない感覚」が、都市生活では得難い贅沢なのかもしれません。
この日は、
正丸駅 → 正丸峠 → 伊豆ヶ岳 → 天目指峠 → 子ノ権現 → 西吾野駅
という約12km・フルマラソン級の体力コースを歩きました。
途中、天目指峠から子ノ権現へ向かう道は、
アップダウンが続く林道で、後半の集中力が試される場面も。
それでも、子ノ権現の「大きな鉄のわらじ」まで辿り着いたときの達成感は格別です。
🏞こんな人におすすめ
- 静かな山歩きがしたい人
- “登山の一日切符”を味わいたい人
- 都心から日帰りで、しっかり自然に浸りたい人
伊豆ヶ岳は、「山と向き合う」という感覚を静かに思い出させてくれる場所です。
登ったあとの一杯の水、空気の冷たさ、足の疲労すら、愛おしく感じられる──
そんな登山体験を、ぜひ。
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