『フジコ・ヘミングの時間』の場所へ。

 フジコ・ヘミングさんが旅立たれてから、その邸宅に行ってみたいと思っていました。下北沢にあることは映画や記事で有名なので、私のほかにも二人の訪問者がいました。まだ49日も経っていないので、フジコさんの魂が時々ここに戻ってきているのでしょうか。邸宅の前に立つと、誰もいないはずなのに少しドキドキしました。近所の方々は、取り壊されないかどうか心配で、頻繁に様子を見に来られるそうです。それを聞いて、とても切ない気持ちになりました。

 映画『フジコ・ヘミングの時間』やドキュメンタリー番組で、フジコさんの東京の家のインテリアが紹介されていました。

 あちらこちらに置かれたテーブルライトやフロアライトでオレンジ色に照らされた暖かな雰囲気の部屋で、フジコさんはピアノを弾き、その下には猫がいて、自ら描いた絵や写真が額に入れられてランダムに飾られていますが、バランスよくおしゃれにまとまっています。まさに、フジコさんだけの時間が流れている部屋です。映画のタイトル『フジコ・ヘミングの時間』が絶妙にマッチしています。フジコさんだけの特別な空間と時間。そんなフジコさんにしかない、相対性理論にとても憧れます。

 しかし、敷地内には大きな木が茂っており、外からはそのインテリアの様子をうかがい知ることはできません。エレガントなものを探そうと視線を向けると、一輪の百合が咲いているのが見えました。

 昨年5月の東京国際フォーラムでのピアノリサイタルが、私にとっての最後の生演奏で、これからも一生、コンサートホールで彼女のピアノを聴くことができないなんて、まだ信じられない気持ちです。 しかし、生前の映像や演奏がYouTubeに残っており、フジコさんから人生について学べることはたくさんあります。これからも私の心の中で生き続けるでしょう。


 フジコさんを偲びながら、ついでに下北沢を散策してきました。開発が進んでいることもあり、下北沢は一つのテーマパークのように見どころが多く、半日たっぷり楽しめました。

 フジコ邸は、この変化の前からそこにあったのだと思うと、フジコさんの存在が人々を引き寄せたのかなと感じます。(笑) これからも下北沢を訪れるたびに、フジコ邸をサンクチュアリとして立ち寄りたいと思います。