ファイト危機一発!奥多摩三大急登「本仁田山」体験記。

 9月下旬が近づくと、夜の虫の声に秋の気配が漂います。そんな季節の変わり目に思いを馳せていた矢先、バディから突如として送られてきたメッセージ「明日山行きますか?」と。登山初心者は、低山専門のため、夏山の活動は休眠中でしたので、ついに復活の時が来たか!と、若干この日を待っていました。(笑)

 目的地は壮観な奥多摩の「本仁田山」。体力レベル★2、距離も8.1㌔と記載されていたため、楽な一日になるだろうと油断していました。

 準備も手慣れたものになり、過去の登山での不快な鼻水対策をしました。特に、7月に副鼻腔炎に罹患したときに病院で処方された点鼻薬が効いた経験があり、今回は漢方でなく、アレルギー性鼻炎用の点鼻薬をGETしたのです。

 さらに、初夏の登山でタオルを一枚しか持参していなかったことが、プチトラウマになっていました。その教訓を生かし、この度は笑いを交えつつも、なんと4枚ものタオルをリュックに詰め込みました。

 6時間半くらい睡眠して、翌朝 5:15に起床。バディーもはじめての山ということで、付近にランチを食べられるところがあるかどうかもわからない。ですので、冷凍のキンパと、スーパーで買っておいた美味しそうな唐揚げをお弁当箱に詰めていきました。

 朝、予定よりも5分くらい余裕を持って、最寄り駅へ。しかし、ホームについてみると、私が乗ろうと思っていた電車6:12のつもりが、6:16と電光掲示板に示されており、「あ、今日は休日ダイヤか!」と気づく敬老の日。幸運にも、五分の猶予がこれ以上の動揺を防きました。路線を再検索してみると、隣のホームで代替の選択肢を見つけました。

 そして、バディと中央線で合流したとき、「奥多摩三大急登だけど大丈夫?」と突如投げかけられた問い。瞬間、少し間をおいて、漢字になって「急登」という単語が頭の中で舞い踊りました。私は、単純に体力と距離と時間の三要素で山を評価していたのですが、バディはさらに計算されたものでした。山頂までの距離が短いという数字の裏に、傾斜が激しい1224メートルの頂上がひそんでいたのです。

 こうなったら知らぬが仏。これ以上先入観を持たずに、奥多摩駅から登山口まで、30分間、残暑残る大気の中のアスファルトの道を歩いていきました。

 山頂までわずか2.2㌔。目の前に広がる風景は、一見、手を伸ばせば届くかのような錯覚を生むほどのどかです。ここから始まるのは修行の道なのか?

 森に踏み込むと、確かに気温は若干落ちますが、この場所は何も語らないのです。水の音、鳥のさえずりなど、予想される自然の音が無い。踊り場のような安堵の場所も、途中で座るためのベンチもない。一言で言えば、急登しばり。

 汗滴がしだいに顔を伝い、もはや頭にタオルを巻く大工スタイルが必要不可欠となりました。首にもタオルを巻き、ストレスを減らしていく作業。

 グッドポイントとして、なんと点鼻薬がその真価を発揮! 普段なら1時間以内に始まる鼻腔内の湿り気が、驚くべきことに、訪れなかったのです。7月の副鼻腔炎から得た究極の教訓でした。

 風もほとんど吹かない森の中で、ミニ扇風機が健闘してくれました。夏季の低山登山には様々な試練があることを痛感しました。


 ペースも次第に掴めてきたころ、新たな問題が突如として現れます。

 蜂。なぜかこの一匹の蜂が、広大な森の中で我々を見つけ、耳元でブンブンという音を奏でるのです。その行動原理は、自然の謎に包まれています。

 急登よりも、蜂によるストレスが圧倒的に増しました。アロマの虫よけスプレーはあっという間に空に。そして何よりも驚くべきは、この蜂に対して、私の言葉遣いが乱暴に変わる瞬間。「うるせー!」という掛け声も、当然、蜂には一切効果がありません。私とバディが位置を変えると、蜂も私たちと同じように動き、その行動は一種の不思議な八の字ダンスとでもいうべきものでしょうか。

 ネットで調査を深めると、黒い服、汗の匂い、香料といった要素が蜂を引き寄せる要因であるようです。大声を出すと、それが反撩となり刺される危険も潜んでいます。(気をつけなくっちゃ)

 そして、そんな困難も乗り越え、なんとなく登っていくことはできました。斜面の様子が伝わる写真を撮ろうといろいろとやっていまして、こちらどうでしょう。

 長方形の対角線のような、つまり45度の傾斜が見えます。

 こんなのばかり。登り始めて1時間しても誰ともすれ違いませんでした。


 突然、幻想的なクリフが目の前に立ちはだかりました。この光景はまるでジブリの映画から飛び出してきたよう。登山の熟練者であるバディは、このクリフを登ることにワクワク感を抱いていました。

「これ登るのかな?でも奥の方に、黄色と黒のロープがあるね。この先行かないようにというロープなのか? 右のほうにピンクのリボンが見えるから、右側から周るのかな?」

 やはり、リボンかなと思うわけです。先にバディがちょっと見てくるわ、ということで、ピンクのリボンを目指して、細い道を進み始めました。私も少し進み始めました。細い道すぎて、結構きわどい感じです、こちらの山で滑落した方もいらっしゃったようですし…。岩にへばりついて、バディの答えを待っていました。

 バディが15mくらい進んで、「こっちじゃないみたい」と気づきました。じゃあ、どこに登山道があるのか? 私も登山道でない道を若干進んでいたので、ぎりぎりの場所を戻るのに結構大変でした。最後は、岩に手をひっかけて、「ファイト一発」と心の中で叫びました。

 結局、バディも無事に元の場所へと戻りました。その安堵感を表した一枚の写真がこちら。

 ファイト一発したら、足がつっちゃって、回復中。

 そんなハプニングもまた一つの経験であり、それを乗り越えることで得られる洞察があります。単独で山に挑むと、間違いに気づかずに進んでしまう可能性が高まります。このため、登山は二人以上で行うことがよさそうです。緊急事態に備えて通信手段を確保できるわけですから。死の危機に瀕したわけではありませんが、山の厳しさについて新たな認識を得ました。


 さて、問題は「登山道はどこにあるのか?」ということ。答えは、不規則にうねる根っこを這い上がる他に選択肢がありませんでした。少し進んでみると、黄色と黒の阪神タイガース柄のロープが視界に入り、その直前には階段が現れました。このロープが実は登山道を指し示していたことに、後から気づいたのでした。

 座って休めるところがなく、立ったまま水分補給して、ドライフルーツを食べて、そしてまた進むの繰り返し。足元ばかり見ているから、写真がキノコの山。(笑)

ヌメリガサ科:毒性あり。

テングタケ科:毒性あり。

どんぐり。

 我々は既に登山を始めてから2時間が経過していました。ガイドブックには1時間45分と記されていたため、想定よりも時間がかかっています。夏の暑さが体力を削る一方、私たちは計画的に休憩を挟み、無理のないペースでの登山を続けました。

 ようやく私たちと逆ルートからの下山の人、3人くらいとすれ違いました。私たちが登ってきたところを下るのも結構大変だとおもいますけどね。それは内緒です。(笑)

 ついに、3時間の登山を経て、本仁田山の頂上に到達しました。しかし、そこには期待とは裏腹に、わずかに二台のベンチと制限された眺望のみ。ランチを楽しむ場所としてはやや物足りないと感じましたので、下山に向かう途中にあるもう一つの山頂へ、プラス20分です。

 瘤高山からの眺め。

 昼12時30分、遂にランチタイムが到来。ベンチも小屋も見当たらず、代わりに折り畳みマットが我々の座席となりました。記憶に新しい、アヒージョやバケット、パスタにコーヒーなど、華やかな山頂とは対照的に、今回は私たち以外には誰もいませんでした。しかし、それが逆に新鮮で、唐揚げとキンパの美味しさが際立って感じられました。

 下山のタイミングは13:00。1時間30分で下山するという目論見で出発しました。下り坂は確かに速度は上がりますが、足への負担もそれなりにあります。気温が高くなるにつれて、ミニ扇風機が手放せなくなりました。

 相変わらず、大工スタイルは欠かせません。(笑) 今回のボトムスは、ユニクロメンズの「ウルトラストレッチドライEXジョガーパンツ(S)」です。レディースにはなかった、好みのチャコールグレーがあって、サラサラの肌触りがとても快適でした!

 スピーディーに下ったつもりでしたが、目安のコースタイム1時間30分ちょうどでゴールしました。夏の暑さがなければ、もう少し楽だったのかなと思います。でも、タオル4枚使うような、辛い時期に急登できたことは、新たな扉が開いたような気がしました。

 奥多摩三大急登がクリアできたことで、今後の登山は、中級クラスへ足を踏み入れることもできるでしょう。眺望の素晴らしい山の体験をしてみたいものです。筋肉痛はもちろんありますが、No pain, No gain. ということで、復活したら、また楽になるのがわかっています。


 鳩ノ巣駅に到着し、身を整え直して、駅近くに1軒あったカフェへ。お腹が空いて、夏野菜のピザとこちらのシフォンケーキをいただきました。登山のあとの至福の時間でした。次はどこへ連れて行かれるのでしょうか?(笑)