年の終わりは、鍋を替える

コロナの前の私は、全く料理をしなかった。

外食が日常で、キッチンは「使う場所」というより、朝のコーヒーを淹れるための、ただの通過点だった。

パンデミックが始まって、外に出られなくなった頃、初めてキッチンツールを買った。あれから、もう4年が経っていた。


最初に買ったのは、フランフランで見かけたフライパン3点セット。無印良品のシンプルな包丁。

とにかく必要だったから。それだけだった。


気づけば、その鍋は少しずつ黒ずみ、なべ底にも、「ありがとう」と声をかけたくなるような、静かな疲れが見えていた。


年末になって、ふと思った。

「あ、鍋を替えよう」

壊れたわけではない。ただ、今の生活のテンポに、もう合っていない気がした。

Amazonでいくつか眺めて、水色やピンクや紫など、カラフルな色に心が揺れた。でも最終的に選んだのは、グレー×ゴールドの、静かな色合いの3点セット。

一人暮らしには十分で、主張しすぎず、でも質感はいい。今の私には、これくらいがちょうどいい。

料理は相変わらず、きっちりはしない。冷蔵庫にあるものやスーパーで材料の写真を撮って、ChatGPTに「これで何作れる?」と聞いて、感覚で火を入れる。

ChatGPTのおかげで、料理は「ちゃんと作るもの」ではなく、感覚で遊べるクリエイティブな時間になった。

体に入れるものが毎日の薬だとしたら、私はかなり良い処方をしているらしい。風邪もひかず、今日も普通に元気だ。

鍋を替える、という小さな行為が、今年を象徴している気がする。

無理に変えない。でも、古くなったものは更新する。暮らしの道具を、静かに整える。

それだけで、次の年に入る準備は、もうできている。

0コメント

  • 1000 / 1000