ハプスブルグ家の勢いを感じた壮大なメルク修道院のあと、私たちは、世界遺産であるヴァッハウ渓谷へのクルーズを心待ちにしていました。お天気も良いし、最高のクルーズになりそうです。
しかし、船はドナウ川を通るけれど、私たちの場所に到着する気配はありません。
そんなとき、たまたま通りかかったその船に乗る予定だったという、アジア系アメリカ人によって、私たちの船がキャンセルであることを知り、驚きました。停留所の水深が浅かったことが理由だそうです。添乗員さんもお知らせの電話の着信履歴に全く気付いていませんでした。バスの運転手さんも、次の私たちのピックアップ場所へと出発し始めていましたが、戻ってもらうしかなく、しばし私たちはとても穏やかなドナウ川と青い空の下で、楽しく歓談しながらバスを待っていました。心地よい時間でした。母も旅のお友達ができて嬉しそうですし、予定されたクルーズよりも貴重な思い出となったかもしれません。なんて素晴らしい人たちと一緒にいられたことでしょう!
船の代金は後日リファンドされるということで、気を取り直して、船の執着地である「デュルンシュタイン」という町へバスで向かいました。
デュルンシュタインは小さな城壁都市で、デュルンシュタイン修道院やデュルンシュタイン城跡があるそうです。バスのなかから確認できる、小山の上に立つデュルンシュタイン城跡は、廃墟の不思議な魅力を放っていました。
「リチャードシシシーン」と、添乗員さんが何度も名前を連呼し、私は、「シシシーンって何? 」と小首をかしげながら、ChatGPTに尋ねてみると、「リチャード獅子心王」のことでした。(笑)
デュルンスタイン城は、1140~45に建てられた城で,1192~93年にイングランド王リチャード1世(獅子心王)が第3回十字軍遠征からの帰途,アッコン占領の際の遺恨により,オーストリア公レオポルト5世に捕らえられ,幽閉された城なんだそうです。
後日談に入りますが、昨日、Day 5 の記事を英訳し、英会話のレッスンで、例のごとく記事を音読してシェアしました。そのとき、「リチャード獅子心王」のところが、「リチャード・ライオンハート」に訳され、オンラインの英会話の先生と「ライオンハート? (笑)ChatGPT間違えたのかな?」なんて話していて、大爆笑を誘いました。
ところが今、このブログを書くにあたって再度、リチャード1世を調べたところ、「ライオンハート」という呼び名がついていたそうで、それが日本語に訳されると、「獅子心王」だったわけですね。(笑)流石、ChatGPTです!
私たちがデュルンシュタインの街に足を踏み入れると、驚くほどの静寂が迎えてくれました。コンビニの類はおろか、喧騒の気配さえも感じられませんでした。しかし、ドナウ川には静かに進むホテルのような客船が見え、世界遺産のクルーズがどのようなものだったのか、私たちはただ想像するしかありませんでした。
メルク修道院の豪華な美しさの後では、デュルンシュタインはある意味「おまけ」のように感じられました。街を歩いていると、トレッキングシューズを履いた人々が目につきました。ストックを手にした彼らは、まるでアルプスのトレッキングが日常の一部であるかのよう。昨年から登山を始めた私は、彼らの姿に惹かれ、どこかに隠れた山の存在を探りたくなりました。デュルンシュタインは小さいながらも、その静けさとトレッキング愛好家たちの姿が、アルプス周辺の国特有の雰囲気を醸し出していました。
中世の面影のある小さな城下町の修道院へ。メルク修道院のミニチュア版のような、同じ配色の建物。広場の角に大きな全身鏡が設置され、私がiPhoneで鏡の中の自分を撮影していると、他のツアーのメンバーも集まってきました。
ただの鏡なのに、不思議な国のアリスにでもなったような気分で、iPhoneの中に映し出されている自分たちを見ている様子を撮影したら、集合写真のようになっていましたね。(笑)クルーズが中止になった御一行様の絆が深まっていることを感じました。
修道院のあと、小さな街の散策です。ヨーロッパによくある石畳の素敵な小道という感じでしたが、ここの特徴はアプリコットです。まだまだ時間があるので、カフェなどに入り、時間を費やすのかなと思っていたら、添乗員さんがある場所で止まりました。
「ここからデュルンシュタインの城跡へ行かれます。リチャード獅子心王の気持ちを味わいたい方は、登って行ってみてください」と言って、最終集合時間が告げられました。あと1時間くらいあります。カフェで時間を費やすよりも、あの小山の上にある廃墟と化した城を観たいですし、なにしろリチャード獅子心王に興味津々。私以外にもデュルンシュタイン城跡に興味を持った、60代と70代の皆さん合計8名と一緒に、ちょっと上に上がってみることにしました!
しかし、下りてくる人々を見ると、皆がトレッキングシューズを履いていることに気づきました。そこまでの装備が必要なのかと疑問に思いながらも、私たちは登り始めました。
ところが、城跡は全く見えず、特に70代の仲間たちの体力と安全が心配になってきました。先頭を歩く私は、下りてくる人に残りの時間を尋ね、「まだ20分はかかる」との答え。私たちはそれほど長い時間がかかるとは思っておらず、私自身もずっとGoProでタイムラプスを撮り続けていたほどです。
途中で戻る組と、登り続ける組と分かれ始めました。私は自分のペースで登り続けることを決めました。しかし、目指す頂上は未だに見えず、まるで見えないゴールを追いかけるかのような、不思議な感覚に包まれました。
やがて、開放的な景色の中に辿り着きました。リチャード獅子心王さま、やりました! ここまで登ってきたのは、私と50代後半の女性と、なんと70代の女性でした。
眼下に目をやると、母と他の5名が中腹で休んでいるのが見えました。私たちは手を振り合い、その瞬間は笑顔と喜びに満ちていました。「もうここでいいか!」と男性の一人が発したことで、みんながホッとして登るのを辞めることができたと、後から笑い話になっていました。(笑)
写真の真ん中あたりに座って見えるのが母で、仲間たちも写っています。私たちの頂上到着を見守ってくれていたかのようです!
「さて、戻ろうか」と考えていると、なんと70代のマダムがさらに頂上を目指して先に進んだと聞きました。彼女の安全を考え、私は追いかけることにしました。私はいつもそうですが、時間を気にせず、今すべきことを優先します。もう城跡が見えており、急な登りを上がるだけでした。
そして登頂! 同じツアーのマダムと地元のマダムと一緒に「We did it! 」と歓喜に酔いしれました!(笑) もちろん登山と比べると、そこまで大変ではないですが、70代のマダムは、少しヒールのあるブーツを履いていたし、私はブルゾンを途中で脱いで腰巻にして登っていたりしたので、街着でよくやりました!
マダム曰く、「終わりはどこだろう?と思いながら、頂上まで登ってきてしまった!」とお話していました。そうです。私たちは、どれほどの登りが続くのかを全く聞かされなかったから、登れたのだと思います。これが人生でしょうか。(笑)
頂上からの景色は息をのむ美しさと心地よい空気感で、そこに立つだけで得られる独特の優越感に満たされました。70代の健脚のマダムがいなければ、私もこの景色を目の当たりにすることはなかったでしょう。ツアーの時間制限もある中、私たちは時間を忘れてしまうほど、その瞬間に夢中になっていました。
そして、ついにデュルンシュタイン城跡に触れることができました。12世紀に建てられたこの城は、小高い丘の上にそびえ立っているのに、どのようにして、昔の人々はこの雄大な建造物を築いたのでしょう?
城の壁に残る窓枠に立ち、時間を超えた物語に思いを馳せます。リチャード・ライオンハートが、この同じ窓からドナウ川の流れを見つめていたのでしょうか? 幽閉された彼の目には、この川はどのように映っていたのでしょうか?
夢中で登って辿り着いたあの瞬間は、達成感の喜びしかありませんでしたが、今こうしてブログを書きながら、彼がこの場所で感じたであろう切なさ、孤独、そして強い生きる意志…これらの感情が、古びた石壁に刻まれたかのように感じられます。
私たちは、時間の流れを超えて、リチャード・ライオンハートと同じ景色を見つめている。今回の旅は、時を超えた対話の旅でもあります。
そして、私たちは時間を見る時間も節約し、ただスピードを上げて城跡から降り始めました。足早に進む中、途中で母と合流しました。私たちがゴール地点に辿り着くと、ツアーの仲間たちは温かい拍手で私たちを迎えてくれました。
「頂上まで行った、証拠を見せて!(笑)」と、社長の風格を漂わせる男性が冗談交じりに言うと、私は笑いながら動画を見せました。「本当だったんだ!」と彼が驚いて笑うと、私と70代のマダムは、ちょっとしたロビンフッドのような冒険家気分を味わいました。
そして我々は、デュルンシュタイン~最終目的地ウィーン(Vienna)へ。
Day 5夜~Day 6 続く
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