「本当の自分」になることが夢の夫を支える妻との愛の物語です。しかし、その題材はというと、1926年頃のデンマーク、風景画家の夫アイナーと肖像画家の妻ゲルダ。世界で初めて性別適合手術を受けた人の実話を映画として脚色したものです。いろいろ解説を読んでみると、実際はこんなに美男美女じゃないとか、リアルと違うところもあるそうなのですが、まあ、伝えたいメッセージがストレートに伝わるためには、脚色が必要で、本当に、本当に美しいParisとコペンハーゲンとデンマークの風景のなか、愛の物語は上映されるのです。
英国男子なエディ・レッドメインが、男性→女性になることを望んでいる。自分も画家であり、奥さんも画家なのですが、バレリーナの足を描くのに、代わりにモデルをしてと、旦那にタイツを履かせるんです。もちろんイヤイヤながら、タイツを履こうとしたのですが、気づいてしまいました・・・。自分の中身が女性であるということを。
奥さんは面白がって、「女装をしてパーティーへ行ったら面白くない?」と正解不正解のない、さすがアートなお二人。夫も面白がって女装して、名前は「リリー」ということで、街へ繰り出していくのでした・・・・。ところが、遊びのつもりが、どんどん夫を本気にさせてしまい、しまいには、自分が男の体つきであることも拒否しだして、同性愛者の男性も気になってしまうのです。一方で、奥さんが描いた、あまりにも斬新な女装する「リリー」の絵は大人気になっていきます。
なかなか、感情移入は難しい。エディーの、どんどん女性っぽくなる演技に目がくぎ付けになりながら、奥さん演じるアリシア・ヴィキャンデルの美しさにみとれ。1920年代のファッションって、私が着たい柄物の服が多くて、全て着てみたい!と思ってしまいました。ちなみに、アリシアは、アカデミー賞助演女優賞です!
『キャロル』は、レズビアンなお話でしたが、『リリーのすべて』は、本当の自分は違う性であることに悩む夫の奥さん側からの描写というのもあって、かなり切ないアングルで描かれています。「自身」の性別に対しての違和というものは、『キャロル』にはなかった部分です。ここまで違和感を持ってしまうと、本当の自分を生み出すために、今の自分を死なせなくてはいけない。性別適合手術です。正直、そんなに焦らなくても…と観ているほうは思ってしまいますが、自分に対しての違和感があるひとって、相当なものなのだろうと想像しました。
「本当の自分」。私の仕事柄よく出るテーマです。みんなと言っていいほど、本当の自分を探しています。「本当の自分になりたい」と願いだしたのなら、その人がその人で自由に羽ばたけるように、サポートするしかないのかもしれません。心の問題だけでなく、肉体が違うことまで違和感に感じて、それを無くすために手術する衝動まで駆られ、時代が時代ですから命まで脅かしてまで。そこまでしても、自分になりたかった「リリー」という人。その夢を叶えるために、いつしか寄り添うことを選んだ「ゲルダ」。本当に力強い女性だ。しかも声が低めでカッコイイ。
とにかく、光の美しい映画を観たと思いました。美術館を後にしたような、1920年代のParisの旅から戻ってきたような、まだ夢の中にいる気分です。創造性と本当の自分と愛の物語でした。
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